原阿佐緒歌集『涙痕』
ある勉強会のために原阿佐緒の第一歌集『涙痕』(大正2年)を読んでいる。
茂吉の『赤光』や白秋の『桐の花』と同じ年に出た歌集。
この涙ついにわが身を沈むべき海とならむを思ひぬはじめ
おなじ世に生まれてあれど君と吾空のごとくに離れて思ふ
冒頭あたりの歌から二首。「涙」とか「海」とか「空」とか、かなり抽象的な言葉が並ぶ「明星」的な詠いぶり。(実際、原阿佐緒は「明星」から出発している。)とは言っても、与謝野晶子のように自我でぐいぐい押して行くタイプではなく、恋を嘆いたり、うらんだりする歌が多い。
歌集全体に、抽象性の高い歌が並んでいて、歌にとっかかりがないと言うか、正直、読み通すのがしんどかったのだが、
春はよし恋しき人のかたはらによきことかたりほゝゑめるごと
こんな名歌性のある歌がひょっこりと顔を出したりする。
湯をくみて馬をば洗ふ馬だらひに円き鏡をうつす大空
煤びたる太き竹鍵白泡の酒煮る家に生い立ちしわれ
わが叔父が碧巌録を手にしつゝ打ちもだしたる秋のさびしさ
歌集中盤には、「馬だらひ」「酒煮る家」「碧巌録」などの具体を取り入れた歌があって、こういう歌のほうが現代の視点からはしっくり来るように思った。
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先日、「りとむ」の歌会で、ある会員の方から、「田村さんのブログを読んで、Hさんの歌集を買いました。」というお言葉をいただいた。紹介した歌集を実際に手に取っていただけたのはとても嬉しく、励みになるお言葉だった。ありがとうございました。
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写真は家の近所の居酒屋の野菜サラダ。サラダが新鮮で美味しいお店は、他の料理もまず間違いない。
2012-10-27 00:03
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