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松坂弘歌集『安息は午後に』

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松坂弘さんの第十一歌集『安息は午後に』(砂子屋書房)を読む。

電車のゆれ巧みに利用し化粧するその集中力をあはれと言はむ
預貯金をゼロ届けする国会議員四十人超 そんなバカなとおもふ
オレだつて五十万ぐらゐの預金あるに国会議員さん嘘などつくな


最初に注目したのはこんな歌。一首目は、電車の中で化粧をしている女性について、二首目と三首目は、国会議員の資産公開について詠んだ歌。どの歌からも、現代の世相に対して、一言もの申したいという気持ちが伝わってくる。特に、自分に引きつけて詠んだ三首目に説得力があると思う。私と同世代の三十代や、もっと若い二十代の歌人には、あまりこういう作品はないように思う。若い歌人にも、もっと社会に対する批評的な歌を詠む歌人がいていいのではないだろうか。


噴き上がる水は大小の玉をなし身もだえるさまに天を目指せり
わが影も混じりてあらむ槻の葉の影をふみつつ渡りはじめつ
午後の四時江戸川上空をみんなみに雁とともども往く心かも
「では、また」と改札口にわかれしがその輩(ともがら)と「また」はなかりし


歌集の後半には、こんな存在自体を問うような歌があらわれる。天を目指す噴水、わが影の混じる槻の葉の影、江戸川の上空を往く雁、改札口で別れて以来、会うことのなかった仲間。どの歌も、具体的な場面を通じて、人生や時間というものの重みを提示していて、しんとした抒情を感じさせる。


いま妻が半透明のラップもて包みゐる物を問ふことをせず
雨の夕べ嫁ぎ久しき娘と会ふ妻は知れども秘密めくこころ


こんな家族と過ごす時間を詠んだ歌も、読んでいて、とてもいとおしい気持ちになってくる。


道端にだれか落したる葱ふめば葱おこりしやわれを滑らす


この歌のような、ときに顔を出すユーモアも楽しい。バナナではなく、葱という選択も面白い。



写真は先日作ったニラ玉。ニラは私の好物の一つ。

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