「棧橋」113号
「棧橋」113号(2013年1月20日発行)を読んだ。
巻頭の大松達知さんの「小舟」96首が圧巻だった。
お子さんの誕生と、親しい友人の死をテーマにした大連作。
まずは、お子さんの誕生を詠んだ歌から。好きな歌や、いいと思う歌がたくさんあってきりがないので、お酒が登場する歌から選んでみた。
赤子から離れて戻り来し家(いへ)に氷の溶けて白角(しろかく)はあり
おほげさに言へば命に一献の朝ひとり飲む父として飲む
吾子のため、否、吾子に会ふわれのため乾杯のみで帰る宴席
一首目は、出産に立ち会った後、ひとり自宅に戻ってきたときの歌。テーブルの上に氷の溶けた白角(サントリーのウイスキー)のグラスが置きっぱなしになっている。おそらく前の夜、晩酌をしている途中に、そろそろ生まれそうだという連絡を受けて家を飛び出していったのではないか。氷の溶けた白角が、そんな場面まで読者に想像させるところがいい。
二首目は、「命に一献」というフレーズに惹かれる。すがすがしく、かつ、感動的。お酒を詠んだ名歌でもあると思う。
三首目では、宴会を途中で帰るさみしさを、吾子に会う喜びが圧倒的に凌駕している。上の句の言い換えが、嬉々とした様を伝えているし、下の句の「Ka」音の押韻も心地よい。
一方、友人の死を悼む歌では、次のような歌に惹かれた。
ツイートとツイートの間の十五分ひとり泣きしとツイートをせず
君の通夜までの昼間をわが立ちて三(み)つの授業で笑はせにけり
また、渡辺南央子さんの「雲の扉」72首にも注目。
ブナの木のテーブルの下ふたり子の座高揃へし電話帳ありき
飲み過ぎて言葉過ぎたり帰り来て滝行のごとシャワーに打たる
私もよく飲み過ぎて反省することがあるので、二首目にとても共感。
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同誌の「現代短歌合評」では、松尾祥子さん、辻本美加さん、才野洋さん、大松達知さんに、拙歌集『北二十二条西七丁目』を取り上げていただきました。
とても丁寧な鑑賞、ありがとうございます。
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写真は、正月に群馬に帰省したときに食べた、つけ汁うどん。家庭の消費量ベースでは、群馬は香川県に次ぐうどん県。うどん屋さんもたくさんある。
2013-01-27 20:40
コメント(2)
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「桟橋」の拙作をとりあげていただきありがとうございます。
おっしゃるように大松さんの歌、どれもどれも溜飲が下がるおもいで楽しませてもらっています。
生と死という両極にあるテーマをこのようにまとめる力、といいますか
抑え過ぎず逸りすぎず、尊敬する若い歌人です。
田村さんには
これからも忌憚のない御意見よろしくおねがいいたします。
by 渡辺 南央子 (2013-01-30 21:32)
渡辺様
コメントありがとうございます。
「棧橋」の皆さんの創作意欲に圧倒されています。
私もお二人のような大連作を目標として作っていきたいです。
by hajime (2013-02-07 20:20)